神奈川新人ギタリストオーディション


2014.6.22 第43回神奈川新人ギタリストオーディション入賞合格者

   
 古菅裕之  北代岳大
   
 松本瑞穂  鈴木文乃
   
 中山春彦  鈴木朝美
  
  表彰式
本選採点表pdf

2014年6月22日(日)神奈川県横浜市磯子区民センター「杉田劇場」で第43回神奈川新人ギタリストオーディションが開催された。今回は昨年度の次点入選者(予選免除)1名を含む44名の応募者総数であった。また、昨年に続いて、ゲスト審査員として濱田滋郎氏に加わって頂いた。
予選の課題曲はF.ソル作曲の練習曲Op.35-22(月光)であった。自由曲は、例年と同じく各自が登録した3分以内の曲の演奏をした。審査の結果7名の予選通過者が選出された。西本悦子副委員長の講評にあったとおり、課題曲の演奏では過度の緊張をしてしまって音が抜けたり、F.ソルの時代様式に則った解釈でない演奏、旋律線をしっかり処理していない、などの演奏が多く見られ、残念に思われた。ギターのレパートリーも多様化しているが、古典のレパートリーもしっかりと勉強していてもらいたいものだ。今回も課題曲を確実に、音楽性を以って演奏した者が本選に残った。加えて自由曲でも確実さ、ばかりでなく自分の個性を発揮しないと、予選通過は難しくなってきている。ギター界における若年層の進歩は目覚ましく、今回も若年世代が殆どを占める本選会になってしまったが、上の世代の者でも好演し、予選通過ラインに迫る者も多く居て、心強かった。
 予選を通過した7名に昨年度の次点入選者1名を加えた8人で本選が行われた。本選では、ブローウェル作曲のシンプルエチュード第1番〜第10番より各自が登録した任意の3曲と、6分以上10分以内の各自が登録した自由曲を演奏した。本選会後の表彰式で濱田滋郎先生より「本選は非常にハイ・レベルなものであった。」「今日の演奏以上にギターは素晴らしい楽器であることを感じさせる演奏を目指して欲しい。」とのコメントを頂いた。
 本選の採点は、合格点を80点を目安とし上下10点づつの幅を持たせて採点して平均点を出す方法を採った。結果として、平均で合格点(80点以上)を得た6名が入賞合格となった。以下に本選の演奏順に結果と評を記す。

1.中田真翠(なかた まさあき) <入選>
予選自由曲:パラグアイ舞曲(A.バリオス)
本選課題曲選択:第1番、第4番、第9番  本選自由曲:大聖堂(A.バリオス)
 柔軟な指と確実な技巧を持った奏者である。美しい音色で旋律を歌わせる技術もあるが、それが発揮されているところと空回りしてしまっているところがあり、バランスを欠いているところが残念であった。課題曲では速い部分では更に明快なアクセント付けが必要に思われたし、ゆっくりした部分では込められるべき「哀愁・翳り」というような表現にまでは届かなかったようだ。もっとも14歳という若い奏者に大人っぽい表現まで求め過ぎるのは少々酷かもしれない。自由曲の第一楽章と第二楽章は、曲としてまとめ上げるのは難しい部分ではあるが、のびのびとした音色で良く歌わせていた。ただ、無意識にと思われるビブラートがフレーズをふやけさせているところがあるので、一考を要する。第三楽章でも快速のテンポで弾ききって見事な演奏であったが、時折思いもかけぬ場所で出してしまうミスタッチが少し気になった。今後に求められるのは、あと少しの音量と個性的な表現力かと思われる。


2.古菅裕之(こすげ ひろゆき)<入賞・合格>
予選自由曲: マドローニョス(F.モレノ=トローバ)
本選課題曲選択:第6番、第8番、第9番  本選自由曲:ソルの主題による変奏曲(M.リョベート)
 13歳という若い奏者ながら素晴らしい技巧と音楽性を身に付けていて、既にある程度完成されていると言っても良いであろう。課題曲では充分な音量で音色も美しく、表情付けも良く考えられていた。また現代作品にふさわしいアクセント付けがされており、色彩感も見事なものであった。自由曲でも高音から低音までバランス良く、澱みなく、素晴らしい技巧で弾ききっていた。突き進む、といった感じの力のある演奏は聴衆を唸らせる魅力をもっていて、審査員も全員高得点を付けていたようだ。無いものねだりのような要求になるが、この奏者に欲しいのは、更なる音色のふくよかさと、ゆっくりした部分の雰囲気作りであろう。テクニックが空回りすることなく、音楽性豊かに聞かせる、真に感動させてくれるスケールの大きな演奏者に育って欲しい。


3.八木下愛海(やぎした まなみ) <次点・入選>
予選自由曲: ソナタK.380(D. スカルラッティ)
本選課題曲選択:第2番、第4番、第6番  本選自由曲:椿姫幻想曲(J.アルカス)
 19歳という若い奏者であるが豊かな音量と堅実な技巧を持っている。課題曲では音の粒も揃い明確に演奏されていた。しかし、どの曲も過不足なく演奏されてはいるのだが、曲の面白さを紡ぎ出せないと言おうか表現に工夫が不足しているように思われた。小曲がいかにも小曲で終わってしまって、それぞれを味わうまでに至らせてくれなかった。自由曲での演奏開始までの長い集中時間のあとで、聴衆も緊張して待つ中での冒頭でのつまずきは痛く、減点材料になったと思われた。調弦の時間も自分の演奏の場の雰囲気の作り方として勉強して欲しい。美しい音色と過不足無い技巧で曲を進めているのだが、後半になると表情付けの単調さが気になった。今後は自分独自の音楽的な魅力を追求し、今以上に聴衆を魅了する音楽性を身に付けてもらいたいものだ。次回に期待したい。


4.北代岳大(きたしろ たけひろ)<入賞・合格
予選自由曲: 蛙のガリアルド(J.ダウランド)
本選課題曲選択:第1番、第9番、第10番  本選自由曲: 大序曲(M. ジュリアーニ)
年齢は関係ないと言われればそれまでではあるが、さすがに20歳代後半の北代は、落ち着いた味わいのある演奏を聞かせてくれた。課題曲では3曲ともにテンポの速い曲を選択し、そつのないアクセント付けとテンポ感で安定した演奏を展開していた。ただ安定感、安心感が表に出すぎていて、もうひとつスリリングな要素を期待してしまうのは欲張りというものであろうか。あと一工夫でその両面とも表現できる素晴らしい演奏になったような気がしてならない。自由曲での古典的な解釈と安定した技巧、たっぷりとした音量は素晴らしいものだった。速い難度の高いフレーズも安定感と余裕でこなしているように思えた。更に要求したくなるのは、ジュリアーニ独特のアップテンポで湧き上がってくるようなフレーズなどで、心をワクワクさせてくれるようなスリリングな要素を表に出して聴衆を楽しませてくれる工夫であろうか。


5.中山春彦(なかやま はるひこ) <入賞・合格>
予選自由曲: セギデーリャ、セヴィリャーナ(R.S.デラマーサ)
本選課題曲選択:第5番、第6番、第7番  本選自由曲:ソナタOp.61より第2、第3楽章(J.トゥリーナ)
今回の本選出場者では一見して最年長者であることが判るが、指の動きなどは全く引けをとらず、音楽も若々しい。落ち着き、円熟性などではやはり、他の奏者よりも一日の長があり、聞く者になぜか安心感を与えてくれる。課題曲では最初、固さが感じられたがポイントを上手く掴み、サラリとまとめて見せた。ゆっくりした部分では表情を上手く付けて立体的に表現し、続く速い曲でも音作りは丁寧さを失っていなかった。欲を言えば「攻撃性」みたいな表現も少し加えて欲しかった。自由曲の第2楽章では音作りが丁寧で、雰囲気作りも上手く、第3楽章ではラスゲアードや速いパッセージも良く決まっていた。残念なことは第3楽章の中間部で少しビリついた音が目立ってしまったのと、充分な音量がありながらタッチのせいなのか楽器のせいなのか判らないが、もうすこし音に芯があれば、より説得力が増すのではないかと思わせるところであった。


6.松本瑞穂(まつもと みずほ) <入賞・合格>
予選自由曲:ロマンスOp.13-17(J.K.メルツ)
本選課題曲選択:第6番、第4番、第9番  本選自由曲:森に夢見る(A.バリオス)
 繊細な音と細やかな感情表現を持つ19歳の奏者である。その繊細さが災いしたのか課題曲では音が細く平板な演奏に聞こえてしまった。短い曲を3曲続けるわけであるが、アクセント付けの少ない表現と相まって曲と曲のインターバルが短いので、それぞれの曲の特性を引き出して展開して見せるまでには至らなかった。堅実な演奏ではあったが課題曲では高い得点は得られなかったように思われた。自由曲では課題曲で見せた欠点のようなものが逆に生き生きと働き、感動を生む演奏となった。柔らかく安らぎに満ちた表情で始まり、それぞれ形の違ったフレーズを繋いで行きトレモロにはいるまでの表現力と構成力など誠に見事なものであった。トレモロもまた美しかった。次のトレモロが出てくるまでの繋ぎの部分での和音の音程が少し気になった。調弦に依るものでなく押弦に依るものと思われるが、もう少し神経を払いたいところであった。曲の終わり近くで細かい部分で音がかすれたりしたのは少し残念であったが、柔らかく優しく美しい演奏は聴衆の心に深く染み入っていたのではないだろうか。


7.鈴木朝美(すずき あさみ) <入賞・合格>
予選自由曲:エチュード第6番(I.プレスティ)
本選課題曲選択:第4番、第6番、第1番  
本選自由曲:予選自由曲:ロマンスOp.13-17(J.K.メルツ)、ワルツ第4番(A.バリオス)
 柔らかく、たっぷりとした音色を持ち、しかも堅実な技巧を持った奏者であるが、現代作品へのアプローチ経験が少ないのか大きなダイナミックの変化とかアクセント付け、スリリングなテンポの変化などには今一歩の印象を受けた。課題曲では柔らかい表現には好感が持てるが、曲の面白さを引き出すための鋭い音色や弱音の美しさ、大胆なテンポの変化などが少し不足気味で、なんとなく平板な印象のままに終わってしまった。自由曲のメルツでは曲の部分の変化をよく捉え、交差する各声部の弾き分けも見事で、構成よくまとめ上げて知的な印象を感じさせていた。バリオスは美しい音色で堅実に演奏されていたが手堅くまとめすぎた感じで、中間部の低音などもう少し聴衆の心を揺さぶるような強い歌心が加えられても良いのではないかと思った。ともあれ、しっかりとした構成力と魅力的な音色を持ち、また堅実な技術を持った大変楽しみな奏者である。


8.鈴木文乃(すずき ふみの) <入賞・合格>
前年度次点により予選免除
本選課題曲選択:第6番、第7番、第1番  本選自由曲:アナトリア民謡による変奏曲(C.ドメニコーニ)
 一昨年、昨年と素晴らしい指の動きと確実なテクニックで聴衆を唸らせていたのだが、音量の少なさのために本選での評価が低かった記憶がある。まだ15歳の少女で手の大きさや指の力に問題があるようで残念であったが、今年はそれもかなり改善され、見事入賞合格となった。課題曲では聴衆が彼女の成長ぶりを見守る中、少し固くなってしまったのか、音量も充分でなく、めずらしく少々不安定なところも見せてしまったようだ。しかし目を見張る指の動きは健在で難しさを感じさせず、さらりと弾ききってしまう凄みをみせていた。今後、現代曲へのアクセント付けや音色の変化などの勉強を重ねれば更に素晴らしい演奏になるであろう。自由曲ではテーマを儚さを伴なって美しく歌って見せ、聴衆の心を掴んだ。続く変奏でも相変わらず達者な指さばきで緩急の変化も良く、次々と曲を綴って行くさまは見事なものだった。しかし、もう少しギターを鳴らし切ること、もっと多彩な表現を試みることなど、彼女の成長に期待するものも、まだ残っていることを感じさせた。



写真とレポート:川俣 明 (神奈川ギター協会委員長)