神奈川新人ギタリストオーディション


2016.6.26 第45回神奈川新人ギタリストオーディション入賞合格者

大沢美月
佐々木宣博
中里一雄
中野木介

入賞入選
表彰
第45回神奈川新人ギタリストオーディション
2016年6月26日(日)神奈川県横浜市磯子区民センター「杉田劇場」 神奈川ギター協会主催
                                          写真とレポート:川俣 明 (神奈川ギター協会委員長)

2016年6月26日(日)神奈川県横浜市磯子区民センター「杉田劇場」で第45回神奈川新人ギタリストオーディションが開催された。今回は昨年度の次点 入選者(予選免除)1名を含む34名の応募者総数であった。例年よりも、やや少なめの応募者数であり、今までの傾向では応募者の多い方が全体の演奏レベル は高いという記憶もあったので、心配された面もあったが、本選のレベルが、かなりの高水準を保ったものだったのは、主催者としても喜ばしいことであった。 また、今回はゲスト審査員として佐藤弘和氏に加わって頂いて、審査員室は新しい雰囲気が感じられた。
予選の課題曲はF.ソル作曲の練習曲作品31-10、自由曲は例年と同じく、各自が登録した3分以内の曲を演奏した。審査の結果5名が予選を通過し本選は 6名の演奏となった。本選前の西本悦子副委員長の講評にもあったが、古典の曲の様式の把握に問題がある者が多く、しかもこの傾向は毎年進行しているような 気がしてならない。付点音符の扱い方やアーティキレーションの処理の仕方など、適切な型に収めて欲しいとまでは言わないが、古典曲の演奏の共通認識を理解 しておくのはクラシック音楽を演奏する者にとっては必須のことと思われる。指を動かす練習ばかりでなく、是非そういう勉強も怠らず、努力をしてもらいたい ものだ。また、最近は小さなミスタッチについても、特に課題曲においては大変厳しい判断が下されるので、演奏の音楽の内容が良くても、緊張の余りの思わぬ ミスで予選通過を逃した者は、次回は更に充分な対策を講じて参加して欲しいものだ。
本選では課題曲はF.タレガ作曲のマリーア、それと各自が登録した6分以上10分以内の自由曲を演奏した。本選に残った各奏者は、前述のように、さすがに レベルも高く、聴きごたえのある本選会となった。本選の採点は80点を合格の目安とし、上下10点ずつの幅を持たせて採点し、平均点を出し、判定する方法 を採った。結果、平均点で合格点を得た4名が、他の2人の得点に少し大きく差つけての入賞合格となった。
以下に本選の演奏順に結果と評を記す。

1.中里一雄(なかざと かずお) <入賞・合格>
予選自由曲:前回次点により予選免除
本選自由曲:カスティーリャの歌(R.S.デ・ラ・マーサ)
課題曲のマリーアは、やや速めのテンポながらタレガのロマンティックなところを良く表現していた。ギターの音色も爽やかさが感じられていて良かった。しか し、本選の一番手で緊張が上手くコントロールされなかったのか、冒頭と中間部で小さなミスがあったのは減点に繋がり残念なことであった。自由曲は落ち着き を取り戻し、手堅く演奏されていた。全体的に音色も美しく、力強さも持っている。スペイン音楽は得意な分野であるのか光になる部分と影の部分を見事に表現 し作品の本質によく迫っていた演奏と言えるであろう。惜しむらくはハイポジションの低音絃の音程にはもう少し注意を払いたい。しかしながら中間部の高音絃 の高音部のメロディーラインなどは、とても美しく表現されていた。

2.佐々木宣博 (ささき のぶひろ) <入賞・合格>
予選自由曲:華麗な舞曲(A.タンスマン)
本選自由曲:ハンガリー幻想曲(J.K.メルツ)
 課題曲のマリーアは速めのテンポで流麗に演奏されていた。この曲はテンポの変化も巧みに表現せねばならないが、よく工夫されていて、重い表現にならずに 軽快にまとめたところに好感がもてた。しかし細かいミスタッチが無いわけではないので、今後はより注意を払いたいところである。自由曲では8絃ギターの特 徴を生かしながら、速い細かな音符の部分も巧く演奏されていた。チャルダッシュの感じもなかなか良い。8弦のせいかギターの響きがやや重いだろうか?胸の すくような華やかな音色や表現も、あと一歩研究してもらいたいものだ。
後半部では速い動きにややもたつく箇所も出て最高潮にまでに盛り上げるには至らなかったが、演奏者としての素質を充分に示した佳演であったと言えるであろう。

3.斉藤奈々子 (さいとう ななこ) <次点・入選>
予選自由曲:エル・マラビーノ(A.ラウロ)
本選自由曲:「BWV1012」よりガヴォットT&U、ジーグ(J.S.バッハ)
 力強いタッチと音楽を持った奏者で、輪郭のはっきりとした音色は良いのだが、この課題曲マリーアの表現としては、ややきつい感じに聞こえてしまってい た。中間から最後の部分にかけても、やや荒れた感じに聞こえてしまって、タルレガの曲の演奏に望まれるようなロマン的な表現とは距離感があるようにも感じ られた。自由曲では充分な音量で骨太にギターを歌わせてはいるが、ガヴォットではテンポがやや重く、ジーグも流麗というところまでは至らなかった。やや粗 削りながら演奏力の素質には充分なものを持っていると思われるので、より掘り下げた表現、音楽の内面に入っていくような研究を進めていってもらいたい。

4.井上和也(いのうえ かずや)<入選>
予選自由曲:前奏曲ホ長調(M.M.ポンセ)
本選自由曲:アッシャー・ワルツ(N.コシュキン)
 しっかりしたリズム感と輪郭のはっきりした音色と音量など、技量の高さを伺い知ることの出来る奏者ではあるが、正攻法で真正面から押し切るような演奏に 徹してしまうため、全体を通して聞くと、やや単調に聞こえてしまう傾向にある。課題曲マリーアは、速めなテンポで始められたが、中間部でキズを作ってし まったのは痛かった。自由曲では繊細な音色で翳りを表現するところもあるはずだが、明快さを目指す演奏の方向性が全体を支配していて、この曲の神髄に迫る までには至らなかった。特殊奏法もしっかりこなしてはいるのだが、ノーマルな奏法の部分が今一つ単調な表現になってしまっているせいか、効果が上がってい ないように感じられた。

5.大沢美月(おおさわ みずき) <入賞・合格>
予選自由曲:前奏曲ホ長調(M.M.ポンセ)
本選自由曲:椿姫の主題による幻想曲(J.アルカス〜F.タルレガ編)
 美しい音色と確実なテクニックを身に着けた奏者で、今回のオーディションでは抜群の技量を示していた。課題曲は快速なテンポで始めて聴衆を魅了していた が、マリーアの副題の「ガヴォット」という意味でのテンポ設定は正しかったかどうか再度考察してもらいたいような気もする。自由曲では各部分が良く考え抜 かれて、伸縮の効いた歌いまわし、音色の使い分けなど、聴衆を楽しませる要素も充分でテクニックも良くそれを支えている。曲の最後も充分に盛り上げ、演奏 者としての素質が充分なものであることを示していた。一つだけ苦言を呈するとすれば、それは前の世代の巨匠のスタイルが彼女の演奏の感性に大きく影響し過 ぎているのでは、ということである。杞憂であることを祈りたい。

6.中野木介(なかの もくすけ) <入賞・合格>
予選自由曲:「BWV997」よりジーグ(J.S.バッハ)
本選自由曲:サウダージ第3番(R.ディアンス)
 課題曲マリーアは正統的で適切なテンポで奏されていた。テクニック的に難しいところで少しテンポが落ちてしまったり、少しビリつきが目立ったところが あって残念だったが、まずは無難にまとめた好演だったと言えるだろう。自由曲は良く弾き込まれていて、全体のテクニック、音色感、指さばきも丁寧さが感じ られて非常に好感が持てる。各所に現れる特殊奏法も曲の内容から浮いてしまうことも無く、良く考えて奏されていた。更には、華やかな音色と、曲全体を楽々 と奏し切ってしまうような技術の向上を目指してもらいたい。