神奈川新人ギタリストオーディション


2017.7.2 第46回神奈川新人ギタリストオーディション入賞合格者


加藤潤

三崎百音

二上育矢

本多磨弥


本選出場者

川俣明委員長講評


第46回神奈川新人ギタリストオーディション
2017年7月2日(日)神奈川県横浜市磯子区民センター「杉田劇場」 神奈川ギター協会主催
                                          写真とレポート:川俣 明 (神奈川ギター協会委員長)

2017年7月2日(日)神奈川県横浜市磯子区民センター「杉田劇場」で第46回神奈川新人ギタリストオーディションが開催された。今回は昨年度の次点入 選者(予選免除)1名を含む38名の応募者総数であったが、その次点入選者を含む5名の棄権者が出て、予選は総計33名で行われた。また、今回はゲスト審 査員として月刊「現代ギター」誌の編集長の渡邊弘文氏に予選・本選共に審査に加わって頂いた。ギターに関わる者には身近な雑誌の編集長の参加ということ で、出演者にとっても審査員にとっても新鮮な感じのオーディションとなった。
予選では課題曲のN.コスト作曲の練習曲ニ短調と、例年と同じく、各自が登録した3分以内の自由曲を演奏した。審査集計の結果8名が予選を通過し、本選へ と進んだ。予選課題曲はギター練習者にとっては親しみのある曲であるので、殆どの者が適正なテンポ感覚で演奏してはいたが、本選前の西本悦子副委員長の講 評にもあったとおり、アウフタクトの取り方や、高音のメロディーと中声部と低音部のバランスに問題のある演奏もかなり多く見られたのは残念であった。また このような課題曲の場合は小さなミスタッチやビリつきでも大きな減点対象になるので、緊張の余りのミスで予選通過を逃した者は、次回は更に充分な対策を講 じて参加して欲しいものだ。この課題曲を確実に演奏し、自由曲では確実さはもちろん、何らかのアピール度を強く出せたものが本選に進んだとも言える。
本選では課題曲のF.タレガ作曲のアラビア風奇想曲と、各自が登録した6分以上10分以内の自由曲を演奏した。この「アラビア風奇想曲」ほどの有名曲にな ると、名演奏家の録音も多くて、かえって普段の練習や演奏機会が少ないのか、思わぬ苦労をした者が多かった。各パッセージを達者に演奏する者でも、どこか 「聞き覚え」のような箇所があったりして新鮮さを欠いていたようだ。慣れ親しんだ有名曲でも、時々は楽譜に帰って研究してみることが必要であろう。
さて本選の採点は80点を合格の目安とし、上下10点ずつの幅を持たせて採点し、平均点を出し、判定する方法を採った。結果、平均点で合格点を得た4名が、他の4名の得点に少し大きく差つけての入賞合格となった。
以下に本選の演奏順に結果と評を記す。

1.本多磨弥(ほんだ まや) <入賞・合格>
予選自由曲:BWV.996よりアルマンド(J.S.バッハ)
本選自由曲:「ソナタ第3番」より第1楽章(M.Mポンセ)
ギターをかなり立てて構える独特のスタイル。過不足の無い音量と音色と技術を持っている。存在感が素晴らしい。課題曲のテンポ取りは、やや単調に流れ、 「奇想曲」という感じには遠かったように思われる。自由曲ではテンポ感も良く、強い主張を以て演奏されてはいたが、細かいミスタッチが散見し、本人として も満足のいくものでは無かったと思われる。また強奏される和音も、この曲では常に美しいものでありたい。いろいろ苦言を呈したが、それでもこの奏者の良い ところは天性の強い個性と、かなりのアピール度が感じられるところであろう。より正統的な音楽的裏付けと、確実さを身に着けて、個性あふれる演奏を聞かせ て貰いたいものだ。

2.鎌田孝博 (かまだ たかひろ) <入選>
予選自由曲:練習曲第6番(H.ヴィラ=ロボス)
本選自由曲:「シンプル・エチュード」よりNo.3、No.7、No.10、舞踏礼賛(L.ブローエル)
 課題曲のテンポ取はやや単調で「奇想曲」という気分のものでは無かった。迫力のある音量を持って演奏されるのだが、均一性、ツブの揃った音というのには 今一つで、流麗な感じというには、やや遠い感じがした。半音階での上昇スケールのミスは減点材料になってしまって痛かった。素晴らしい音量と技術を持って いるのだが、それを発揮するには右手のタッチに工夫が欲しいように思われる。自由曲のブローエルでも、高度な技術で演奏されてはいるのだが、なぜか音に鮮 鋭さを欠き、キレの良いリズムや音楽の現代性を表現しきれていないように思えた。

3.二上育矢 (にかみ いくや) <入賞・合格>
予選自由曲:蜜蜂(A.バリオス)
本選自由曲:夢(G.レゴンディ)
 課題曲では「奇想曲」の雰囲気のテンポ取りには、あと一歩という感じもしたが、メロディーは良く歌われていて曲の良さにかなり近づいていた。若々しく素 晴らしい技術を持っているが、今後は細かい音符の僅かなビリ付きにも気をつけて、更にその技術を完璧にして行ってもらいたい。自由曲では大変に奇麗な音色 と歌い回しを披露してくれたが、更にもう一段上の音色の変化や表現の幅などを身に着けて、各部分をその範囲内だけで完結するのではなく、曲の最後までを見 通して表現できる音楽性を身に着けてもらいたい。曲の中間部の低音のメロディーでは少し疲れが出たのか、たっぷりと歌いきれなかつたのは少し残念だった が、そのような体力面での問題も今後は必ず克服してくれるものと期待している。

4.大高佑介(おおたか ゆうすけ)<入選>
予選自由曲:「カヴァティーナ組曲」よりスケルツィーノ(A.タンスマン)
本選自由曲:「カルフォルニア組曲」よりアルマンド (J.M.ガジャルド・デル・レイ)タランテラ(M.C.テデスコ)
 課題曲では「奇想曲」の雰囲気のテンポの考え方は良く、メロディーも良く歌われていた。リズムはそれで良いのだが、もう少し自由度が加われば更に雰囲気 は良くなると思われた。美しい音色と音量は充分なものを持ってはいるが、もう少し均一性にも心がけないと流麗な演奏とはならず、今後はそういう工夫も必要 かと思われる。自由曲「アルマンド」では曲を良く理解し生き生きと演奏されていたが、後半は少し表現が単調になってしまった。また「タランテラ」ではオリ ジナルの楽譜の指示なのか、ゆっくり目のテンポで演奏されたが、やはり「タランテラ」という曲の速さを考えた場合には不満の残るテンポになってしまった。 細かな未消化と思われる部分もしっかりと修正し、胸のすくような快演を是非期待したい。

5.三崎百音(みさき もね) <入賞・合格>
予選自由曲:タンゴ・アン・スカイ(R.ディアンス)
本選自由曲:魔笛の主題による変奏曲(F.ソル)
 演奏前の調弦を非常に小さな音量で行い、好感が持てた。課題曲のテンポ取りは、やや単調に流れ、「奇想曲」という雰囲気ではなかった。高度の技術と過不 足無い音量で演奏しているのだが、装飾音で出来らないところがあったり、フェルマータで流れが途切れすぎてしまったり、まだまだ自分の手の内に収まらない 部分が目立ってしまった。自由曲は速めのテンポで確実な技術で演奏が展開され、聴衆を唸らせていた。テンポの遅い部分で我慢出来ずに少々走り出したり、間 の取り方に違和感を感じさせた部分もあったりしたが、全体として爽やかな印象を残した好演であった。

6.石川一美(いしかわ いつみ) <入選・次点>
予選自由曲:魔術師の鐘(L.ブローエル)
本選自由曲:森に夢見る(A.バリオス)
 課題曲は前半の部分のところで、メロディー以外の中声部が少し大きくなってしまって、流れが悪くなってしまった。しかし次第に修正され、部分では出来不 出来のムラはあるものの、全体では曲の雰囲気を良く表現し、聴衆を引き込むことのできる好演であったと言えよう。自由曲は自分の好きな曲を選ぶので当然で はあろうが、その「好き」という感覚が伝わってきて好感がもてた。トレモロは美しく奏されていたが、冒頭の和音の続く箇所で音をビリつかせたり、曲の後半 で疲労のためか不安定さを感じさせたりして、この曲の壮大な自然観、スケール感を描き切るまでには至らなかったと思う。柔軟さと感覚の鋭さを持つ奏者と思 われるので、修正すべきは修正し、次回は更なる好演を期待したい。

7.井上和也 (いのうえ かずや) <入選>
予選自由曲:テンポ・デ・クリアンサ(D.レイス)
本選自由曲:「ソナチネ」より第1、第3楽章 (F.M.トローバ)
 課題曲は譜読みもしっかりされているようであったが、やや不充分な要素も残していたようであった。音色音量など非凡なものを持っているのだが、テンポ取 はやや単調で「奇想曲」という気分のものでは無かった。装飾音や上昇するスケールなどでミスが出て減点材料になってしまった。自由曲も曲の雰囲気や面白さ を表現するというよりは曲の進行に重点を置いた感じの演奏であったが、調子が悪かったのかミスや音抜けが目立ってしまって聴衆を納得させる演奏にはならな かった。演奏能力はかなり高いものを持っていると思われる奏者なので次回は好演を期待したい。

8.加藤 潤 (かとう じゅん) <入賞・合格>
予選自由曲:前奏曲ホ長調(M.M.ポンセ)
本選自由曲: 魔笛の主題による変奏曲(F.ソル)
 課題曲は、この日ただ一人、最初のハーモニクスの音符がカウントされ3小節後の音符に導かれていた。譜読みも確かであるようだ。最初のアラベスクな下降 スケールは少し不安感を残したが、その後はメロディーものびやかに、曲の雰囲気を見事に引き出し、技術的にもほぼ完璧で、この課題曲ではこの日の最も優れ た演奏であったように思えた。自由曲も高い技術で見事に演奏されていた。中でもテーマの部分で切れやすい部分をしっかり繋いだり、第5変奏とフィナーレ で、確固たる意志を以て演奏されたところなど、新鮮さをも感じた。惜しい事には、第4変奏などのテンポの変化など、おそらく自分の中ではまだ未消化な部分 が出てきてしまった箇所がいくつかあったように思えるが、更に考察を重ねて、より素晴らしい演奏になることを期待したい。